少額訴訟

「少額訴訟」は、少額の紛争について、紛争額に見合った時間と労力で解決を図ることができるよう、手続を出来る限り簡易迅速にしたものです。
少額訴訟手続においては、原則として、裁判所に出頭するのは一日で済むように、一回の口頭弁論期日だけで審理を完了し、判決の言い渡しは審理の終了後直ちに行います。
さて、実際、少額訴訟手続と通常手続にはどのような違いが出てくるのでしょうか。


Q1.今回の民事訴訟法改正で、少額訴訟に関する特則を新たに設けたのはなぜですか?
Q2.「少額訴訟に関する特則」の概要はどのようなものですか?
Q3.少額訴訟について、利用回数制限を導入したのは何故ですか?
Q4.少額訴訟手続の選択権は原告にあり、被告には通常訴訟手続への移行申述権が認められるということですが、それはどういうことですか?
Q5.少額訴訟手続きにおいて、証拠調べは、どのように変わったのでしょうか?
Q6.判決による支払いの猶予(分割払い)が認められるようになったということですが、それはどのような理由によるのですか。

今回の民事訴訟法改正で、少額訴訟に関する特則を新たに設けたのはなぜですか?
 訴額が90万円以下の訴訟事件を管轄する簡易裁判所については、司法を一般市民に利用しやすいものにするという理念に基づき、簡易な手続で迅速に紛争を解決できるよう、多くの特則が設けられ、運用上も、この理念を実現すべく様々な工夫がなされています。
しかしながら、上記特則も、基本的には、地方裁判所と同一の訴訟手続が適用されるなど、一般市民が身近な紛争を解決する手段としては、費用や時間がかかるため、利用しやすさという点においても、必ずしも十分なものとは言えない状況にあると言われています。
そこで、特に小規模な紛争について、少しでも一般市民が訴額に見合った経済的負担で、迅速且つ効果的な解決を裁判所に求めることができるようにすることを目的として創設されたのが、この少額訴訟です。

▲ページトップへ戻る

「少額訴訟に関する特則」の概要はどのようなものですか?
 「少額訴訟」は、少額の紛争(訴額が30万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする事件)ついて、紛争額に見合った時間と費用と労力で解決を図ることができるように、手続を出来る限り簡易迅速にしたものです。
少額訴訟の訴訟手続においては、原則として、裁判所に出頭するのは一日で済むように、一回の口頭弁論期日だけで審理を完了し、判決の言い渡しは審理の終了後直ちに行います。
当事者は、原則として、その口頭弁論期日前またはその期日に、すべての主張及び証拠を提出しなければなりません。

▲ページトップへ戻る

少額訴訟について、利用回数制限を導入したのは何故ですか?
少額訴訟は、広く一般市民に対して、少額の紛争について裁判による解決を求める途を開くことを目的とするものであります。
 このような性格に鑑みて、特定の者が多数回に渡って独占的にこの手続を利用する状況は好ましくなく、国民が平等にこの手続を利用する機会を確保し、そのメリットを享受することができるようにする必要があると考えられます。
 ところが、実際には、簡易裁判所を傍聴すれば一目瞭然ですが、同一の者(消費者金融や信販会社など)が同一の簡易裁判所に大量の事件を持ち込んでいる状況が見られます。
 仮に、このような事態が少額訴訟において生じますと、その簡易裁判所において少額訴訟の利用を希望するすべての者に少額訴訟のメリットを平等に享受させることができなくなり、一般市民の利用が阻害される恐れがあります。
そこで、少額訴訟につきましては、同一の原告による利用回数を制限しているわけです。

▲ページトップへ戻る

少額訴訟手続の選択権は原告にあり、被告には通常訴訟手続への移行申述権が認められるということですが、それはどういうことですか?
 少額訴訟の対象となる事件(訴額が30万円以下の金銭の支払の請求を目的とする事件)が、すべて少額訴訟手続で処理されるわけではありません。
 少額訴訟の対象となる事件については、少額訴訟手続と簡易裁判所における通常の訴訟手続とが併存することになります。
 原告は、少額訴訟の対象になる事件について、少額訴訟手続によるか通常の手続によるかを選択することができます。少額訴訟手続きを希望するときには、簡易裁判所に対して訴えを提起する際に、少額訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述をする必要があります。この申述をしなければ、事件は通常の手続によっ て処理されることになります。
これに対し、被告は、審理が開始されるまでの間、原告が少額訴訟手続を選択した事件を通常の手続に移行させることができます。
 原告に手続の選択権を認める以上、当事者間の公平を図り、被告の利益を十分に保障するためには、被告にも手続の選択権を与えるのが適当です。また、少額訴訟手続を簡易裁判所における通常の手続と明確に区別し、手続の面でも裁判の内容の面でもかなり思い切った処理を実現するためには、被告の協力も不可欠であり、被告の協力を得るにはその意思を尊重する必要があります。このような配慮から、被告について通常の手続への移行申述権を認めたのです。

▲ページトップへ戻る

少額訴訟手続きにおいて、証拠調べは、どのように変わったのでしょうか?
 少額訴訟においては、「即時に取り調べることができる証拠」に限り証拠調べをすることができます。
 少額訴訟は、原則として一回の口頭弁論期日で審理を完了するものですから、検証や鑑定のような証拠調べについては、その実施のために現場におもむく必要があったり、長い時間を要したりするような場合、少額訴訟の手続の構造になじまないと考えられます。そこで、証拠調べの対象について即時性を要求したので す。
 仮に、即時に取り調べの出来ない決定的な証拠を持っているような場合においては、原告の場合には、通常手続による審理を求めれば良いでしょうし、原告により少額訴訟手続きを選択された被告においては、通常手続への移行を申述すれば良いことになります。

▲ページトップへ戻る

判決による支払いの猶予(分割払い)が認められるようになったということですが、それはどのような理由によるのですか。
 少額訴訟の対象となるような少額の紛争についてまで、強制執行によって判決の内容を実現しなければならないとすると、原告は、勝訴したとしても、費用や時間、労力の点で割に合わない場合が多いと思われます。
 和解や調停においては、被告による任意の履行が行われるように、被告の現実の支払能力等を考慮して分割払いの合意をすることが一般に行われています。
 したがって、少額訴訟を真に効果的な少額の紛争の解決手段とするためには、少額訴訟においても、支払方法等について被告にとって任意の履行のインセン ティブとなるような内容の判決をすることによって、被告が任意の履行をしやすいように配慮し、少しでも原告の強制執行の負担を軽減することが望ましいとい うことができます。
 そこで、裁判所は、その裁量により、判決の言い渡しの日から3年を超えない範囲内で、認容額の支払いの猶予をすることができるとしたわけです。
 たとえば、平成10年6月から平成12年4月まで毎月末日限り金1万円、といったような判決が許されるようになったわけです。

▲ページトップへ戻る